松村堂

気になることは、気にとめる事にしました。

熟練社員をお荷物にしてしまう社会

 

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 考えてみればいつの頃からか、「老害」という言葉をちょくちょく耳にするようになりました。その意味は現代のビジネス社会において、若手の新鮮なアイデアをろくに検証もしないで潰してしまったり、自分の持つ古い常識を、若手に押し付けたりする年配ビジネスマンの事を指します。しかし職場でのジェネレーションギャップによる問題は、今に始まったことではなく、いつの時代もよく言われるキーワードでした。実際に、そういう老害的な側面を持った上司や先輩社員によって若手の活躍が阻まれているケースというのは、現実も起き続けているかもしれません。しかし、若手の提案に対して渋い顔をしてみせる年配のビジネスマンのすべてを、老害と言い切るのも少し乱暴な気がします・・・。今まで、経験を積んだ実績のあるビジネスマン達が、あえて若手の斬新な提案に対して慎重になるのは、他にちゃんとした理由があるのかもしれないと考えてはどうでしょう。

 

熟練社員が若手社員の提案に慎重な理由

 たとえば、若い社員が、斬新なアイデアを上司に伝えると、中高年の上司は渋い顔をして首をひねります。するとその反応を見て、若手は一気にトーンダウンしながら「やっぱり世代が違うから、僕たち若者の発想を理解できないのか~・・・。」と結論付けます。若手の立場に立てば、そういう印象を受けるのも当然でしょう。実際、時代によって移り変わる流行というものはあって、この点について言えば、世代によるギャップは確かに非常に大きいといえます。10歳、場合によっては5歳でも年齢が違うと、流行の話題についていけない、ということも現実にあります。だからといって、「流行についていけない=その人がビジネスにおいてもまったく判断力を失っている。」とは限りません。本質的な意味でのビジネスの実力に、年齢はほぼ関係が無いと言えるでしょう。

 

実戦経験が世代をこる

 確かに多少の、流行にはついていけなくなったとしても、このビジネスを成功させるにはどうしたらいいか・・・。人の能力を引き出すにはどうしたらいいか・・・。といった、ビジネス一般に通用するような物事の理解力や経験、知識というのは、年齢とともに高まっていくものです。加齢によって体力が低下したとしても、ビジネスの世界には60代、70代といった年齢を超えて、ますますすごい仕事を成し遂げていく人たちも沢山います。経験豊かなビジネスマンたちが、若手の斬新な提案に対して慎重になる。そこには、流行や若者の感性についていけていないというのではなく、それなりの「理由」がある場合が少なくないのです。

 

誤解から老害が生まれる瞬間

 最前線で沢山の経験を積んだビジネスマンほど、新しいビジネスを立ち上げる時のリスクや困難、あるいは押さえておかなければいけないポイントをたくさん知っているものです。なので、若手の提案に首をひねっているベテラン上司は、別に部下のアイデアを全否定している訳ではないのです。むしろ発想や、目の付け所には感心しているのかもしれません。しかし彼らの長年の経験が、その発想のよさを評価するより先に、このアイデアが、現実のビジネスとして地に足がついたものになるだろうか・・・。という心配を募らせ、表情を曇らせてしまうのです。しかし、ベテランには不安を払拭できるだけの、豊富な経験があります。若手が、やっぱり世代が違うから、僕たち若者の発想を理解できないのだな・・・。とがっかりしている隣で、上司の頭の中は、心配でいっぱいの状態から、前向きな思考に切り替わろうと努力しているのかも知れません。

 

焦りからの失敗をしがちな若手社員

 経験の少ない若手は、上司ほどいろんな角度からアイデアを吟味することはできません。むしろ、良いアイデアは、早く実行に移さないといけない・・・。グズグズしていたら、ほかの会社に先を越されてしまうかもしれない・・・。と考えてしまい、見切り発進をして失敗する。ということは往々にして起きることです。斬新なアイデアを、ビジネスとして形にしていくためには、やはりベテランの意見を取り入れることは大きな力となるはずです。どれほどすばらしいアイデアであっても、順を追ってリスクや問題を解決しておかないと失敗する。という感覚から慎重になる。ベテランと、早く手をつけなければ先を越される。という焦りにとらわれた若手社員達も熟練社員達とお互いに、自分の疑問点を説明し、お互いに建設的な話の場を持てば、きっと会社にとっていいものが生まれる可能性があるのです。

 

若手とベテランの大きな溝

 上司が渋い顔を見せたときに、反射的に「でた老害!」と思うのではなく、ひと呼吸置いて、自分には見えないけれど、上司なりに懸念事項があるんだろうな・・・。と想像してみましょう。一方、上司もまた、部下からの提案を聞いたときに、反射的に「これは失敗するな・・・。」という懸念がよぎったとしても、それはむしろ自分がこれまでの失敗の経験や常識に過剰にとらわれているからなのではないか、と疑ってみましょう。しかしながら、実際にはなかなかこれを実践するのは難しいかもしれません。それはやはり、両者の間を隔てている壁が、もはや理屈で割り切れない相手に対する思い込みの何者でもないからでしょう。

 

両者が歩み寄る方法とは

 それでは、この感情的な思い込みを乗り越えるにはどうすれば良いでしょうか。それは、まず話の速度とタイミングを双方が合わせる努力をするのです。日本の企業社会においては、経験を積めば積むほど、なかなか「本題」に入らなくなる傾向があるようです。ベテランはなかなか本題に入らない。これは、仕事ができる人・できない人ということを問わず、キャリアの長さにだいたい比例するとされています。つまり若手は、打ち合わせが始まればすぐに本題に入るけれど、10年、20年と経験を積んだベテランは、なかなか本題に入らない。最近のニュースやスポーツの話題、あるいは子育てや教育の話題など、雑談をしてからおもむろに「ではそろそろ・・・。」と仕事の話に入るのです。なので、ベテランが本題に入るスピードの遅さは、キャリアが数年程度の若手にとっては、非常に苦痛なのかも知れませんが、そこ大いに歩み寄りましょう。

 

最後に

 結論としては、とりあえず時間とタイミングの違いが理解できると、確実に世代間ギャップの半分くらいは埋まるのではないかと考えます。若手は、熟練社員に対しベテランはなかなか本題に入らないものということを意識しておく。逆に、ベテランは、自分がどうでもいいような雑談に時間を割いていることに、若手はイライラしているかもしれない、ということに思いをはせておくことが大切です。双方の時間感覚の違いを意識して、常に歩み寄ろうとしておくことで、ジェネレーションギャップが広がらず職場の生産性は俄然いい方向に変わっていくのではないでしょうか・・・。